――先生にお会いするまで、糖尿病を治療するには、大学病院や総合病院に行かないといけないと思っていました。先生のクリニックのように、「外来で気軽に通える糖尿病専門の街のクリニック」があるということはまだ、一般的にはあまり知られていないと思うのですが…。
確かに、まだ少ないですよ。大阪府下で20件くらいかな(2006年8月現在)。病院を辞めて独立している医者が増えてきてはいるけど。それに、法律の問題があります。今の法律では医師法の関係で、「糖尿病科」という看板が出せない。まあ、院内の掲示とホームページではうたってもよくなったので、昔にくらべると多少は伝えやすくなったのですが。
やっぱり情報を公開できないとなかなか広まらないですからね。患者さんの立場に立つと、気の毒に思います。
――患者は情報を待っています。自分の住む地域にそんなクリニックがあるとすごくありがたいと思います。先生のクリニックでは具体的にどのような糖尿病の治療をされているのでしょうか?
主に食事療法です。専任の管理栄養士がいて、午前中の毎日と、水曜日は夜診でも栄養指導をおこなっています。そのほかに予約制で食事量の調査とか、「記憶法」といって普段の食生活に関するアンケートと実際に食べたものを表に書いてもらってそれを計算する方法もあります。
最近ではデジカメやケータイで食事を撮影して送ってもらうこともやっています。書くのは面倒という人にも、「ご飯の量が多そうだ」とか「野菜が少ない」と指導しやすいのがいいですね。食事療法以外には、インスリン注射の導入や糖尿病に関する講演会を開いて患者さんに病気を知ってもらったり、運動療法の一環として、日曜日に、スタッフと患者さんとで奈良に花見に行ったり、紅葉狩りに出かけたり。それに、糖尿病患者のイベントであるウォークラリーに参加したりもしています。昨年は、ふくだ内科クリニックチームが優勝したんですよ。
あ、これ、毎年開催するウォークラリーは、ユンブルさんにも取材をしてもらったことがありますが、けっこう大規模なイベントです。コースを決めて、病院のグループごとに歩き、順位を競ったりするものです。年々、参加者が増えてきましたよ。
――取材中に先生からお聞きした、糖尿病患者の数があまりに多いので驚きました! 誰もが、明日は我が身と思えるような数字ですね。病気への心がまえなど、どう考えればいいのでしょうか。
予備群を含め、2300万人を超えました(平成23年度厚生労働省「国民健康・栄養調査」で、成人の27.1%が糖尿病がその予備群という結果)。そのうち4割近くの人が、「糖尿病と診断されたが治療を受けていない」と言います。ご自身の体の中で起こっている糖尿病の存在に気付いておられない人が多いということです。我々は、それを最も危惧しています。
糖尿病は、どこかが痛くなるという症状がありません。ある日突然、眼が見えなくなって眼科に行ったら「糖尿病が原因だと診断された……」と嘆く重症患者もいます。
10年前の検診でひっかかったときにはたいしたことはなくて、気付いたら進行しているという例もある。糖尿病を甘く見てはなりません。
毎年検診を受けて、血糖値が上がってきたら早めに内科医に相談することが大切です。悪くなると、網膜症や腎症、心筋梗塞や狭心症といった合併症をともないます。それに重くなればなるほど医療費もかさむ一方なので、早めの予防が一番なんです。
検診でひっかかった時点ではすぐに受診して、心を決めて生活を自己管理してください。そうすれば、薬を飲む必要もなく、改善する患者さんは多いですからね。
ただ、糖尿病は生活習慣病といわれていますが、遺伝体質によるところも大きい病気です。体質が強い場合、生活習慣を見直すだけでは治りにくいこともあるのが難しいところ。それに、年をとるということも危険因子のひとつになります。いったん悪くなったらなかなか元に戻りにくい病気なので、早め早めの対処がもっとも効果的です。
1 2 3 ≫次へ
|